(前回からの続き)
地上げ屋さん:
「こんばんは〜。
あ〜やっと来れましたわ〜」
っと、地上げ屋ッチが玄関に
入った途端、
ぎょっとした顔をして
半歩引き下がった。
そんな素直な反応をした
地上げ屋さんを見て、
意外にもわかりやすい人なんだなぁ
と思った。
(お主、わかりやすいわんわん)
地上げ屋ッチをギョギョッとさせた原因は、
玄関に脱いであった男物の靴を
見た時のリアクションでした。
なんてわかりやすい人なんでしょう。
その反応に大満足し、いたずら好きの私から
したらご馳走すぎて、
どんどん突っ込みたくなっちゃいました〜。
きゃ〜、ヤッフォ〜
(地上げ屋っち大絶賛で万歳三唱)
だから大阪人って、
分かりやすくて好き!(勝手な決めつけですが)
そういえばかつて「大阪人が大嫌い・
憎くてしょうがない」をテーマにして
セッションをしたことがあるな〜。
ほんまに人生って、いろいろだす。
地上げ屋さん:
「あの〜、もしかして〜
この靴、弁護士さんでっか?
弁護士、呼んでるのん?」
那旺:
「あっ〜、まぁね
そんなに気にしなくて大丈夫よ。
ちょっと遊びに来ただけだから。
さっ、どうぞ〜上がって、上がって」
呼吸を整えるようにした
地上げ屋ッチは、
地上げ屋さん:
「えっ、いいんですか〜?
上がっても〜。
ここのマンションに交渉に来てからというもの、
上にあげてもらえたのって、
お宅さんが初めてですわ〜。びっくりですぅ。
ありがとうございます。
ほな遠慮なく、スンマセン。お邪魔致しますぅ」
私が用意したことになった弁護士を見て、
地上げ屋ッチは落ち着きを取り戻して
丁寧に挨拶した。
地上げ屋さん:
「よろしくお手柔らかにお願いしますぅ」
ちゅうか、地上げ屋ッチは、
私の友達を勝手に弁護士だと勘違いしているので、
特にそうだとも、違うとも言わなかっただけです。
(気持ち、いたずらだい)
那旺:
「どう?交渉はうまく進んでいるの?」
地上げ屋さん:
「はい、おかげさんで。
私の担当ではお宅さんが
最後になりましたんや。
他の担当の者もいるのですが、
彼の担当で一人だけ交渉決裂の人がいるんです。
その人、どうかしてますよ、ホント。。
ありえへん金額を要求してきて、
この際いくらでも取ってやる!
ってな態度で、1階の単身の人やけど・・、
なんですかねぇ、あの人えげつないですわ〜。
全く話になりまへんのや。
あそこまでいってまうと、交渉しても
解決はまず無理です。
あとは弁護士に
解決してもらうしかないでしょうね。
それにしても・・、ここでの仕事は
お金になりませんわ〜。
全然儲けがありません。」
那旺:
「どうして?」
地上げ屋さん:
「やっぱりそれなりの地域性って
もんじゃないでしょうかね。
皆さん法律も知っているし、
知的レベルが高いから、なんやかんや言ってきて
難しいでんすよ〜。
もう、ここでは儲けることは
諦めましたわ〜。」
那旺:
「で、私が最後の交渉相手ね。
最後に優しい人でよかった!
って思っているんでしょ?」
地上げ屋さん:
「いえいえ、お宅さんは難関ですわ。
この道30年やってきて、直感なんですが、
イヤ〜な予感がしおります。
なんでお宅さんの順番が最後になったか、
なんとなくわかる気がしますぅ。
あなたを見ていると、
なんだかようわからなくなるんです。
苦手っていうか・・、なんですかねぇ。。
ていうか、ホント、難しい人の交渉は最後
に残しているんです。」
那旺:
「それって1階の頭のおかしい強欲な
人と同じみたい・・っていう意味?」
地上げ屋さん:
「いえいえ、お宅さんは別物です。
きちんとされたお方です。
こうやって見ると、
お部屋も丁寧に扱っているじゃないですか。
1階の人とは全然違います。
ちゃいます・ちゃいます。
一階のああいうタイプの人っちゅうのは、
性根が悪いもんで、
しゃあないんですわ〜。
どこにでもいるんですね。
あの手のタイプは。
だから私たち地上げ屋はそんなに気にしてまへんのや。
そりゃ気分は良くないですけどね。
めちゃくちゃですからね、
・・・言っていることが・・・。」
那旺:
「ふ〜ん、そっか〜。。
面倒くさい仕事をやってんだね?
長い間よく続いているねぇ。すごいね。
ところでさ〜、バブルの時の
地上げ屋さんって、
すごく儲かったんでしょ?
あの時代はものの弾みで悪技なことをやって、
人の一人や二人は死んじゃったり
したんじゃないの?」
(いい奴なのに、一生懸命に悪技がお)
地上げ屋さん:
「いえいえとんでも無い事ですぅ。
やめてくださいよ、冗談言うのは。
こう見えてもそんなに悪い人間じゃ無いっすよ。
あの時代はねぇ、よかったなぁ。
(回想シーン)
ガッポガッポと儲かりすぎてね、
高級クラブで酒を毎日飲みまくりまして〜、
だから膵臓がやられちゃって、
もしかして来週出る検査結果次第では、
わたし・・入院になる予定ですわ。
もう膵臓はクタクタみたいです、毎晩飲みすぎて。
あの頃は、仕事も遊びも忙しくて大変でしたわ〜。
でも、よく考えてみるとなんも
なんも残った感じがしなくて・・・、
だからバブルなんやね
お金とか権力に溺れると虚しいですねぇ。
(昔を回想する地上げ屋ッチのカールした
まつ毛が可愛い)
地上げ屋の仲間にもひどいことをする奴も
おりましたけどね。
私はこう見えて・・、
それほどヤバイことはしてまへんのや〜。
つまんないじゃないですか〜、
人を陥れてお金を儲けたって、
気持ち良くないですからね〜。」
那旺:
「いつから改心したのよ」
地上げ屋さん:
「そうね〜改心ねぇ。したねぇ〜。
父親が死んだ10年前からですわ〜。
なんだか急にちゃんとしなきゃいけない気がして、
親父に誓ったんです。
これからは性根を入れて生きますって。
こう見えても私には子供3人と奥さんと、
残された母親がいますからね。
いつの間に、なんでこんなこと話しているんだ??」
那旺:
「親って、失ってみて初めて気づくものだよね、
ありがたいって。
それにしてもなんでこの職業を
選んだの?
例えば証券会社とかに就職したら、
地上げ屋さんの実力じゃ、
結構いい成績上げていたんじゃないの?」
地上げ屋さん:
「なんでっしゃろうね〜。
あの時は勉強より仕事していた方が
楽しかったからじゃないんですか?
私は17歳でこの仕事に入って、
もうかれこれ30年ですからねぇ。
そんなぁ・・、証券会社とかは選べませんわ。
だって中卒ですよ私は。
でも、まともに勉強していたら、
結構東大なんかに入れたと思うんです。」
那旺:
「うん、おせじ抜きで私もそう思うよ
話していて賢いって思うもん。
ところでさ〜、今持っている
ジュラルミンケース、なんでそんなに
小っこくて薄っぺらなの?
地上げ屋が持っている
ジュラルミンケースは大きくないと、
億の単位のお金が入らへんでしょ?」
地上げ屋さん:
「まぁ、今日のケースは小さい方ね。
でも、1日の交渉で5億入れたことも
ありまっせ〜。
そういえば、あの有名なチェーン店の飲み屋
〇〇って、本当にヤバイですよ。
完全にヤクザです。金取りですわぁ。
あんなところに飲みにいっちゃ、いけません。
裏を見たら、ホンマにえげつないですわ〜。
あそこの交渉はかなり危なかった」
那旺:
「ふ〜ん、そうなんだ〜。
いろんな経験しているんやね。
そういえば、地上げ屋さんってさ〜、
お笑いのセンスもめっちゃあるじゃない?
大阪なんだから、吉本興業に入ればよかったのに。
一度はお笑いの世界に入ろうとは思わなかったの?
絶対、人気者になったと思うんだ。
目はそんなに大きくないし醤油顔だけど、
まつ毛がクルリンとカールしていて可愛いじゃない?」
地上げ屋さん:
「いや〜そう思いますぅ?
実はね、わたし・・吉本興業に
友人と組んで入ったことあるんですわ〜」
(わてら、ボケと突っ込みで舞台に立ちまんのや。ね〜)
話は尽きなく、今日はこの辺で〜
(続く)
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